皮膚の免疫細胞である肥満細胞からヒスタミンという物質が分泌され、その結果かゆい発疹が出現します。24時間以内の短い時間で、現れたり消えたりするのが特長です。
数日で治まる場合もありますが、慢性化して数ヶ月、数年も症状が持続する方がおられます。患者さんからは
「ストレスがいけないのでしょうか?」
「アレルギー検査を受けた方がいいでしょうか?」
蕁麻疹の原因の検査について
アナフィラキシーの場合は原因検索が必須
蕁麻疹と診断した場合、まずはなんらかの「原因」があるかどうかを、問診などを踏まえて検討します。
特に、アナフィラキシーショックと呼ばれる呼吸困難や意識障害を伴う重症の蕁麻疹の場合、アレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)が何であるかを検討することは、患者さんの生命を守るために非常に重要です。
通常の蕁麻疹では治療を優先
多くの蕁麻疹は、ストレス、寝不足、疲労、風邪、胃腸炎、その他の感染症などを背景に生じ、アレルギーとは無関係です。
タケノコ、豚肉、サバなど、ヒスタミンという物質に類似した成分を含むものを摂取することで生じる蕁麻疹もありますが、これらは症状の経過や問診によって明らかにするものであり、アレルギー検査では確認できません。
そのため、アナフィラキシーではない通常の蕁麻疹の診療においては、検査よりも治療を優先します。
アレルギー性の蕁麻疹は1%程度
一般的な蕁麻疹において、アレルギー検査(Ⅰ型アレルギーを調べる検査)で原因が特定できるのは1%程度です。(文献によっては数%)
99%の患者さんは、検査をしても「アレルギーは見つからなかった」「アレルギー性の蕁麻疹ではないようだ」という確認のみに終わります。
99%の患者さんには、「蕁麻疹 = アレルギー」という図式はあてはまりません。
当院においては、これらの情報をお伝えしたうえで、調べる意義がないと思われる場合は、アレルギー検査をお勧めしておりません。
アレルギー検査は高コスト
アレルギー検査は、血液検査のなかでも費用の高い検査です。
数100項目の検査項目がありますが、一度の検査で調べられるのは13項目だけです。
それだけで4,000円以上の費用(3割負担の場合)が発生します。
蕁麻疹治療のガイドラインでも、根拠もなく網羅的に検査をすることは慎むべきだとされています。
また偽陽性といって、検査では数値が高いものの、実際の蕁麻疹の症状とは因果関係がないこともしばしばみられます。(例:大豆が陽性なのに、豆腐を食べても症状が生じない)
医療経済の面からも、必要性の乏しいアレルギー検査は避けた方がよいと思われます。
アレルギー検査を行うべきケース
それでもアレルギー検査を行うべきケースはあります。
普段は症状がないものの、特定の食材や物質を摂取したときに限って、繰り返し蕁麻疹が生じるような場合はアレルギー検査を行うべきです。
また、普段から繰り返し蕁麻疹が生じている患者さんでも、特定の食材を摂取したときに特に症状が重くなる場合も検査を検討すべきでしょう。
当院においても、必要な場合はアレルギー検査を行いますので、こうした状況に当てはまる患者さんは遠慮なくお尋ねください。
特発性蕁麻疹とは
原因が特定できない蕁麻疹のことを「特発性蕁麻疹」と呼びます。
蕁麻疹の大半がこの「特発性蕁麻疹」です。
「原因が特定できない」と書くと、「本当は原因があるのに、それが見つけられないだけ。どうにかして原因を見つけて、それを除去すれば治る」と思うかもしれませんが、実際は少し違います。
「もともとの体質、そのときの体調、生活環境など、たくさんの要素が複雑に作用し、結果として蕁麻疹が生じやすい傾向が体に生じてしまうのが特発性蕁麻疹である」
と理解した方がいいでしょう。
特発性蕁麻疹の患者さんのなかには、症状が慢性化して何年間も悩まれている方がおられます。そうした患者さんは、「蕁麻疹が生じやすい傾向が染みついて、それが体に馴染んでしまった」状態と言えるでしょう。
診療現場でお会いする特発性蕁麻疹の患者さんの多くは、発症する少し前に「風邪をひいていた」「腹痛があった」「疲れていた」とおっしゃります。
おそらく、そうした状況のなかで、免疫のバランスに歪みが生じ、それが蕁麻疹として現れてくることも多いのではないかとわたしは考えています。
一時的な体調の不良が改善しても、蕁麻疹の方はなかなか沈静化しない方もおられます。
一度生じた免疫バランスの歪みは、長期化することもあるようです。
蕁麻疹治療で「一番大事なこと」
治療開始が遅れると慢性化する 治療を早期に切り上げると再発する
○内服治療を早めに開始した患者さんほど治りがいい。
○医師の指示どおりにきっちり服用を続けた患者さんほど治りがいい。
わたしは長年蕁麻疹の治療を行ってきて、そう実感しています。
蕁麻疹の治療には抗アレルギー剤と呼ばれる飲み薬を使用します。
ちょうどよい効き目の薬をうまく選択すると、服用を開始して数日で症状は消失します。
患者さんのなかには、症状が消失するとすぐ服用を中止してしまう方もおられます。
そのまま治癒して問題が生じないこともありますが、服用を中止して数日するとまた蕁麻疹が生じて服用を再開し、薬がなくなるころに来院される方もいます。
内服薬は表面的な蕁麻疹の症状には即効性がありますが、蕁麻疹が生じやすくなってしまった体の状態を正常にもどすには時間がかかるようです。
この考えには裏付けがあり、蕁麻疹の表面的な症状が消失しても、予防的に3ヶ月程度服薬を続けた患者さんの方が、早期に治療を終了した患者さんよりもその後の再発率が低かったというデータもあります。
蕁麻疹は、その症状が現れているとますます重症化、慢性化する一方、投薬によって持続的に症状を抑え続けることで、その勢いを徐々にですが抑えることが出来るようです。
こうしたことを踏まえ、当院では次に紹介する3ステップで蕁麻疹に立ち向かっています。
第1ステップ ちょうどよい内服薬を選択する
抗アレルギー薬を処方します。
症状をしっかり押さえつつ、眠気などの副作用を抑えた優れた薬がいくつも開発され、蕁麻疹の治療に使われています。(薬の特長は後の方で説明します)
わたしの経験上、効果の強い薬ほど、眠気、だるさが生じやすい傾向がありますので、蕁麻疹の激しさや患者さんの生活状況(車を運転する、試験が近い、など)を踏まえて慎重に薬剤を選択します。
何度か通院していただきながら、必要に応じて薬の内容を調整し、最終的には「処方された通りに服用すれば、症状がしっかり治まっている」「眠気などで生活に支障が生じていない」という状況を実現します。
これが第1ステップです。
第2ステップ しばらく投薬を続け、蕁麻疹の勢いを抑える
先に説明したように、症状が表面上治まったからといって、早期に治療を中断すると再発したり、慢性化する可能性が高くなります。
指示にしたがって、しばらく薬の服用を続けていただきます。
風邪などをきっかけに生じた蕁麻疹で、発症後すぐ来院したケースは2週間程度で終了することもありますが、1ヶ月以上蕁麻疹がつづいた状態で来院した場合は、症状沈静化後も1ヶ月以上、服用を続けていただいております。
慢性化して何年も苦しむより、面倒がらずにしっかりと服用を続け、十分に蕁麻疹の勢いを抑えた方が、結果的には早く蕁麻疹を終わらせることができます。
表面上、症状がないと「本当に服用する必要があるのかな?」と疑問に思うかもしれませんが、わたしの専門家としての知識と経験を信じて服用を続けてください。
第3ステップ 相談しながら薬をゆっくり減量する
慢性化させないために、長めに服用するのはいいとしても、どのタイミングで、どのように治療を終了させるかは専門的な判断が必要です。
蕁麻疹の勢いが十分抑えられたと判断しても、いきなり服用を終了するのは得策ではありません。
はじめ1日2錠だった投薬を1日1錠に減量し、さらに2日に1錠にしていく、といった具合に段階的に治療を弱めていきます。
このあたりの判断は、専門家としての経験と知識が必要なので、原則的には患者さんの自己判断による治療の中断は行わず、ぜひわたしと相談しながら慎重に進めていただきたいと考えております。
最終的に薬から離脱し、蕁麻疹の症状が現れなければ治療終了です。
当院で使用する主な内服薬とその特徴
蕁麻疹で使用する抗アレルギー薬の選択基準は3つです。
- 十分な効果があること
- 眠気などの副作用が許容範囲であること
- できれば経済的であること
これらを踏まえて薬を選択します。
当院で使用する主な治療薬について紹介します。
アレロック(1日2錠)
当院において蕁麻疹の治療薬として一番多く処方している薬剤のひとつです。
優れた効果があり、激しい蕁麻疹の際に使います。眠気が生じる場合があるので、注意が必要になります。
【評 価】 効果:◎ 飲みやすさ:○ 経済性:○ 総合評価:◎
※評価は院長(高橋)の個人的見解です。
ザイザル(1日1〜2錠)
アレロックと比べて、そん色のない優れた薬です。1日に1錠が原則ですが、症状が重い場合1日2錠に増量します。
【評 価】 効果:◎ 飲みやすさ:○ 経済性:○ 総合評価:◎
アレグラ(1日2錠)
蕁麻疹を抑える効果は、アレロック、ザイザルにわずかに劣りますが、眠気が極めて少なく、長期に継続しやすい点では、蕁麻疹治療薬として最も優れた薬だとわたしは評価しています。
【評 価】 効果:○ 飲みやすさ:◎ 経済性:○ 総合評価:◎
アレジオン(1日1錠)
アレグラ同様眠気が少なく、バランスのよい薬です。ジェネリックのエピナジオンも処方可能ですので、経済的にも優れています。激しい蕁麻疹の場合に単独で使用すると、効果が不十分のこともあります。
【評 価】 効果:○ 飲みやすさ:◎ 経済性:◎ 総合評価:○
その他の第2世代抗アレルギー薬(タリオン、エパステル、クラリチン、ザジテン、アゼプチンなど)
それぞれ優れたお薬です。効果、飲みやすさのバランスが優れています。
【評 価】 効果:○ 飲みやすさ:○ 経済性:○ 総合評価:○
第1世代抗アレルギー薬(ゼスラン、ネオマレルミンTR、アタラックスなど)
蕁麻疹に対する十分な効果があります。経済的にリーズナブルなのが特長です。第2世代の薬に比べ、眠気、だるさが生じやすいのが欠点です。
【評 価】 効果:○ 飲みやすさ:△ 経済性:◎ 総合評価:△
Q&A
妊娠4カ月までは胎児への影響を考えて極力内服薬は避けるようにします。体調管理に気を配り、かゆみ止めの塗り薬などで症状を和らげます。5カ月以降は、症状に応じて必要最小限の内服治療を検討します。
眠気やだるさを除くと、大きな副作用はまれです。長期間服用を続けても通常は問題はありませんが、何らかの体調の変化を感じた場合は相談してください。
クインケ浮腫と呼ばれる蕁麻疹と考えられます。24時間以上持続することもあります。放置せず治療を受けましょう。
甲状腺疾患、慢性胃炎、肝臓疾患、膠原病をともなう場合があります。治療によっても症状が沈静化せず、内臓疾患を疑う症状を伴う場合は、内科などとも連携して治療する場合があります。
長期に蕁麻疹が続いている場合、短期間で治癒させるのは困難です。
しかし、悪化原因を避けつつ、長期間根気強く治療することで将来的に症状が消失する可能性はあります。あきらめずに、治療を続けることをお勧めします。
消炎鎮痛剤などが蕁麻疹の原因になることがあります。薬の使用歴を確認し、原因の可能性がある場合は使用を控えるように指導します。
チクチクするこまかな発疹が生じる蕁麻疹です。発汗と関係があるとされています。通常の内服薬が効きにくく、生活指導も含めた根気強い治療が必要になります。
通常の蕁麻疹は遺伝しません。
痒みを抑える注射がありますので、症状が重い場合は補助的な治療として血管注射を行います。注射のみで確実に蕁麻疹を抑えるのは困難ですので飲み薬を必ず併用してください。
激しい蕁麻疹で、通常の抗アレルギー剤では症状を抑えるのが難しい場合に使用します。ただし、副作用のリスクもありますので、必要最小限の量と期間にするよう注意する必要があります。
レスタミン、オイラックスなどが痒みに若干の効果があります。蕁麻疹そのものを抑制する作用はありませんが、痒みが強い場合や何らかの事情で内服薬が使用できない場合は処方することがあります。
蕁麻疹にステロイド外用剤は無効ですので通常は使用しません。ただし、蕁麻疹の発疹を掻くことで湿疹が生じている場合は、湿疹の治療のためにステロイド外用剤を処方することがあります。