ヘルペス(単純疱疹)の悩みを解決するには
唇やその周辺、ときには陰部などにも生じるヘルペス。
赤み、水疱、痛み、ヒリヒリ感などを伴います。
周囲の視線も気になりますし、大切な家族にうつしてしまうのでは?と不安が頭をよぎる方もいると思います。
ヘルペスは一度きりではなく、何度も繰り返す皮膚病です。
なかには毎月のように症状が現れる患者さんもおられます。
ヘルペスについてよく知り、正しく治療し、長期的にヘルペスを抑えていくことで、あなたの生活をもっと快適なものにすることが出来ます。
このページを読んでいただければ、あなたの悩みがずっと軽くなることをお約束します。
ヘルペスとは
「ヘルペスherpes」という言葉はもともとギリシャ語の「這う(はう)」という意味で、かつては「いんきんたむし」など拡大していく病気を指していたようです。
のちに水疱(みずぶくれ)を生じる病気を指すようになり、現在では「単純疱疹」または「帯状疱疹」のことを「ヘルペス」と呼びます。
2種類の「ヘルペス」について 【用語を整理】
ヘルペスのひとつは「単純疱疹」
「単純ヘルペス」とも呼ばれます。
単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)が原因です。
このページで扱うのはこれです。
もうひとつのヘルペスが「帯状ヘルペス(たいじょうへるぺす)」
水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)が原因です。
ちなみにこのウイルスは初感染時に「水ぼうそう」を引き起こします。
(くわしくはこちら → 帯状疱疹の治療)
ヘルペス=単純疱疹とします
つまり「ヘルペス」というと本来は「単純ヘルペス」と「帯状ヘルペス」を合わせた概念ということになります。
しかし「帯状ヘルペス」という用語は最近ではあまり使われず、事実上
「ヘルペス」=「単純疱疹(単純ヘルペス)」
というとらえ方が一般的です。
以後ここでは「ヘルペス=単純疱疹」として説明します。(前置きが長くなりました)
単純ヘルペスウイルス(HSV)とはどんなウイルス
ヘルペスウイルスの特長は以下のとおり。
【特 長】
- DNAを遺伝情報として持つ大型のウイルス
- ヘルペスウイルス科アルファヘルペス亜科に属する
- HSV-1、HSV-2の2つのタイプに分類
- HSV-1は主に上半身に感染しやすく口唇ヘルペスの原因となる
- HSV-2は主に下半身に感染しやすく性器ヘルペスの原因となる
- 上記の棲み分けは厳密なものではない
- 皮膚・粘膜の接触、飛沫、物を介した接触でうつる
- 感染力が強い
- 潜伏感染し再発を繰り返す
- 潜伏感染状態のウイルスを完全に除去する手段はない
- 脳炎、髄膜炎の原因になる
ヘルペスの感染と発症
はじめて単純ヘルペスウイルスに感染することを「初感染」と言います。
皮膚や粘膜を通じてウイルスがはじめて体内に侵入し感染が成立した場合、免疫を持っていなため症状が激しくなることがあります。
唇の周囲や陰部などに発赤と水疱が多発し、全身倦怠感や高熱を生じることがあります。
その一方で、初感染であってもほとんど自覚症状がなく、ウイルスが知覚神経の末端に感染したのち神経を通って神経節細胞に侵入、潜伏感染に移行することもあります。
幼少時に家庭内の接触(スキンシップや食器の使いまわしなど)によって気がつかないうちにヘルペスに感染し、成長してから症状が現れることがあります。これを非初感染初発といいます。
そのためヘルペスの症状がはじめて生じた場合でも、初感染とは限りません。
血液検査を行えばウイルス抗体の数値やその推移から初感染かどうかを判断できる可能性があります。
しかし実践的には発疹の分布や前駆症状(発症前のピリピリ、ムズムズする感覚)などから判断して治療にあたることが多いと思われます。
初感染の症状
前述したように症状が重くなる傾向があります。
発赤、水疱、ただれが生じ、痛みや違和感を伴います。
唇周辺のヘルペスの場合、口腔内にも痛みを伴うただれが生じることがあります。
性器ヘルペスとして発症した場合、男性よりも女性において激しい痛みを生じ重症化することがあります。
強い倦怠感、高熱が生じることもあります。
再感染の症状
ヘルペスウイルスに再度感染した場合が「再感染」です。
口唇ヘルペスになったことがある人が、性的接触などで陰部にヘルペスを生じた場合などです。
こうした場合は免疫学的なタイプの異なるウイルスが関わっている場合があります。(ヘルペスウイルスには顔に感染しやすい1型と下半身に感染しやすい2型があります)
再発の症状
初感染で体内に入り込んだヘルペスウイルスは症状が治まった後もすべて消え去る訳ではありません。
知覚神経節の神経細胞の核内に入り込み、遺伝子の形で潜伏します。
やがて紫外線照射、風邪などの感染症、生理、ストレス、睡眠不足、過労、免疫力を抑制する治療などをきっかけにウイルスが再活性化し、神経に沿って皮膚に水疱や発赤を生じます。これが「再発」です。
ヘルペスが再発する場合、おおむね同じ場所に症状が発生します。
治療などによって症状が沈静化しても、同じ神経節の細胞に入り込んだウイルスが何度も活性化し、同じ経路をたどって皮膚に症状をもたらすからです。
性器ヘルペス 男女間で問題に?
性器ヘルペスは、男性の方が女性よりも相対的に症状が軽い傾向があります。
男性側が潜伏感染に気付いておらず、まったく自覚症状がなくても皮膚や粘膜表面からウイルスが排出されていることがあります。
この場合、男性からパートナーの女性にヘルペスが感染してしまうリスクがあります。
女性が初感染の激しい症状を起こした場合、男性の方に正しい知識がないと自分が原因とは思い至らず、女性の不貞行為を疑って関係に亀裂が入るという不幸な事態が起こる可能性があります。
さまざまなヘルペスの症状
ヘルペス性口内炎
口唇ヘルペスの患者さんの口腔内に生じることが多いです。つよい痛みが伴います。
ヘルペス性ひょうそ
おもに手の爪の周囲に発赤や膿疱が生じます。
細菌による感染との区別が重要です。
年齢を問わず発症しますが、爪を噛む癖のある再発性のヘルペスの子どもによく見かけます。
カポジ水痘様発疹症
ヘルペスウイルスが広範囲の皮膚に拡大し、水疱、ただれを生じることがあります。
小児に生じやすく、発熱やリンパ節の腫れを生じることがあります。
重症化すると入院が必要になることがあります。
ヘルペス性角膜炎
視力障害の原因にもなります。QOLを大きく損ないますので眼の周囲のヘルペスには注意が必要です。
脳炎・髄膜炎
ヘルペスウイルスは皮膚、粘膜、神経に親和性が高い(感染しやすい)ので、まれに脳炎・髄膜炎を起こし重症化します。
免疫力が低下している場合は要注意です。
ヘルペスの治療
初感染
初感染の治療のポイントは以下のとおりです。
- 症状が強い場合は内服か点滴で抗ウイルス薬を投与(※)
- その場合の塗り薬は患部の保護と2次感染対策として抗生物質を含んだ軟膏を使用
- ただれが激しく細菌による2次感染の可能性が高いと判断された場合は抗生物質の内服
- 眼周囲に発疹が広がって角膜ヘルペスの可能性が生じれば眼科と連携
もちろんこれは基本的な考えであって、状況によって臨機応変な対応が必要なのは言うまでもありません。
(※当院では点滴による抗ウイルス薬の投与は行っていません。)
再感染、再発
抗ウイルス剤を投与して治療します。
内服薬(または点滴)による全身投与が最も効果的ですが、発疹の分布が限定的で軽症の場合は外用剤で対応することもあります。
処方薬の紹介
内服薬
バラシクロビル錠(500mg) 1回1錠 1日2回 5日間
ファムシクロビル錠(250mg) 1回1錠 1日3回 5日間
※当院ではバラシクロビルを主に使用します。
外用薬
ビダラビン軟膏(アラセナA軟膏) 1日1~4回塗布
ゾビラックス軟膏(アシクロビル軟膏) 1日数回塗布
特殊な治療(性器ヘルペスの再発抑制)
年に6回以上性器ヘルペスを繰り返す場合、定期的に抗ウイルス薬を服用して症状を抑える治療が検討されます。飲み薬を半年から1年継続します。
バラシクロビル錠(500mg) 1回1錠 1日1回
ヘルペスの再発?実行すべき3つのポイント
①感染の拡大を防ぐ
ヘルペスウイルスは接触によってうつり、広がっていきます。
直接的な皮膚と皮膚との接触のほか、食器やタオルを介してうつることもあります。
飛沫などの体液も感染源になりますので、咳やくしゃみ、近い距離での会話も要注意です。
家族や親密な間柄での感染が多く、乳幼児期に箸や皿などを共有することで感染してしまうことがあります。
患部に触れた指で、自身の体の別の部位を触れることでヘルペスが拡大することがあります。
もし患部に触れてしまったら手を洗いましょう。
②すこしでも早く治療を開始する
発疹がなくてもムズムズ感、ピリピリ感が生じた段階で医療機関を受診することをお勧めします。
ピリピリする部位に過去にヘルペスが生じたことがない場合は判断が難しいので、受診しても「様子を見ましょう」という結論に至る可能性があります。
しかし再発性のヘルペスで何度も通院している医療機関であれば、予兆の段階で抗ウイルス薬が処方される可能性があります。
そのためにも発疹が出たときに1回でも2回でも受診して、症状を確認してもらっておくとよいでしょう。
はじめての皮膚科を受診する場合は、過去にヘルペスを発症したときのスマホ写真や、過去の投薬歴が記載された「おくすり手帳」があると、初診のドクターが判断するうえで参考になるかもしれません。
③治療中も体調に配慮し、免疫力を下げないようにする
過労を避け、休息や睡眠をしっかりとりましょう。
バランスのとれた食事を摂りましょう。
患部をこすったり、強い日差しにさらすのを避けましょう。
無症状のときから心がけたい2つのこと
①免疫力を下げない
症状がないときこそ大切なことがあります。
ヘルペスの発症要因を知り、普段から予防につとめましょう。
以下のことを出来るだけ避けるようにしたいものです。
- 疲労
- ストレス
- 睡眠不足
- 日光など紫外線
- 歯の治療で過度な刺激を受ける
- 皮膚・粘膜の刺激、摩擦
要するに「肌をいたわり」「免疫力を下げない」ことです。
上記のうち「歯の治療」はどうしても必要なときがあります。
歯医者さんに通院する期間は寝不足やストレスを避けるなど、普段以上に体調に配慮するようにしましょう。
②普段から周囲の理解、協力を得る
自分と周囲の大切な人の健康のため、身近な人には協力してもらいましょう。
積極的に話し合って一緒にヘルペスに向き合いましょう。
協力が得られれば、一定の配慮のもと日常的な活動を問題なく行うことができます。
【配慮したいこと・してもらいたいこと】
- 食器やタオルを共有しない(適切に洗浄、洗濯したものは大丈夫)
- 濃密な接触(キスや性交渉)には感染リスクがあるのを理解し、体調や症状に基づきパートナーとも相談し適切な対策を行う(対策すればリスクは下げられます!)
- 乳幼児に感染させると症状が重くなる場合があるので、手洗い、マスクなどで予防する
心構え【再発してもあきらめない】
ヘルペスを繰り返す患者さんにお伝えしているメッセージです。
患者さんへのメッセージ
発症したら、ご足労ですがその都度受診してください。
出されたお薬をしっかり飲んでください。
それを続けると、やがてヘルペスが出る回数が減っていきます。
出たとしても症状が徐々に軽くなります。
あきらめずに続けましょう。
そのうちいつか
『あれ、もう何年もヘルペスがでていない!?』
と実感できる日が来ます。
いっしょに根気よくやってゆきましょう。
あきらめず病気に向き合えば、少しづつでも良い方向に進んでいきます。
まとめ
ヘルペスはウイルス性の感染症で再発を繰り返す
再発の初期症状を自覚したら早めに治療を開始する
免疫力を下げない生活習慣を身につける
根気よく適切な治療に取り組めば、長期的には症状は軽くなる
周囲と協力し、感染防止、再発防止につとめる
以上です。
Q&A
陰部(性器)や臀部に重症のヘルペスが頻繁に生じる場合、再発抑制のために抗ウイルス薬を長期に服用し続ける治療が認められています。バルトレックス錠を毎日1錠服用しつづけることで、ヘルペスの再発をかなり抑制できます。(口唇ヘルペスには残念ながら認められていません)
軽症のヘルペスの場合、抗ウイルス剤で適切に治療すれば一週間程度で沈静化します。しかし、その後も赤みや色素沈着が数週間~数ヶ月持続することがあります。この段階では薬は必要はありませんので、多少の赤みがあっても医師の許可があれば治療を終了して構いません。
ヘルペスの症状の初期に、発疹はないものの違和感、ムズムズ感を感じることがあります。この段階でウイルスが皮膚や粘膜から排出されていることがあります。発疹がなくても何らかの自覚症状があるときは感染予防に十分な配慮が必要です。
ヘルペスは感染力の強いウイルスです。特に、アトピーや肌荒れ、擦り傷など、皮膚表面が弱っていると感染しやすくなります。
また、アトピー性皮膚炎の方は、カポジ水痘様発疹症という重症型のヘルペスを生じやすいので、ヘルペスの症状を疑ったら早めに皮膚科を受診するようにしてください。
ヘルペスウイルスは神経細胞に潜伏感染します。残念ながらこれを駆逐する手段はいまのところありません。しかし、適切な治療を行い、予防を心がけていくうちに症状が現れなくなってくることがあります。適切な治療と予防をこころがけましょう。
ゲンタシン軟膏は、患部を保護するとともに細菌による2次感染を抑える目的で使用されます。ゲンタシン単独ではヘルペスを抑える作用はありませんので、医療機関で抗ウイルス薬の処方を受けることをお勧めします。