診療内容

アトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は、痒みを伴う湿疹が、慢性的に悪化や改善を繰り返す皮膚病です。
背景には皮膚のバリア機能の低下、アレルギーを起こしやすい体質があると考えられます。
多くは乳幼児期に発症し、全身に乾燥症状、赤い湿疹症状が生じます。特に、顔、首、肘、膝などに顕著に症状が現れます。
悪化すると、掻かずにはいられないほどの痒みが体中あちこちに生じ、患者さんにとって、そして家族にとっても大変つらい状況になります。

当院では、多くの方が悩んでいるアトピー性皮膚炎の治療に力を入れています。

わたしを含め、多くの皮膚科医が所属する日本皮膚科学会では、アトピー性皮膚炎を以下のように定義しています。

 

どのように診断するか

まずは、問診を行ったうえで、全身の皮膚の状態を詳細に診察します。
そして、日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎の診断基準をもとにアトピー性皮膚炎かどうか、また重症度がどの程度かを診断します。
診断のポイントは大きく3つです。

  • そう痒(かゆみ)
  • 特徴的皮疹と分布(肘、膝など、左右対称)
  • 慢性、反復性の経過(6ヶ月以上、乳児は2ヶ月以上)

アレルギーの有無は参考項目として「血清IgE値の上昇」が挙げられていますが、診断のために必須ではありません。
発疹の状態を正しく診察し、症状の経過を把握することでアトピー性皮膚炎の診断は可能です。

 

年齢別の症状の特徴

【乳児期のアトピー性皮膚炎】
まずは顔や頸(くび)、頭にジクジクした湿疹が広がります。
徐々に体幹、四肢に湿疹が広がっていきます。

【幼小児期のアトピー性皮膚炎】
肘の内側、膝の裏側の湿疹が目立ちます。
全身の皮膚の乾燥、鳥肌状のポツポツが目立ってきます。

【思春期以降のアトピー性皮膚炎】
顔全体の赤みが強まり、「赤ら顔」の状態になることもあります。上半身を中心に広い範囲に湿疹が広がり、硬く盛り上がる痒い「しこり」が目立ってくることがあります。

【その他の症状と合併症】

  • 眉毛の外側が薄くなる
  • 皮膚が硬くなる
  • 肌が黒ずんだ状態になる
  • とびひ、ヘルペス、水いぼなどが生じやすくなる

アトピー性皮膚炎の原因は?

アトピーの原因はいまだ十分には解明されていません。
「アトピー素因」というアレルギーを起こしやすい体質が関係あるとされますが、アレルギーのみで生じるものでもありません。
アトピー素因のほか、体質的に皮膚のバリア機能が弱い傾向、さまざまな刺激、ストレスが複雑に関与して症状が現れると考えられています。
つまり、「生まれ持った遺伝的傾向」と、「生活環境の因子」が複合して生じるのがアトピー性皮膚炎です。

 アレルギー疾患としてのアトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎の患者さんの多くはアレルギーを起こしやすい体質を持っています。
アレルギーとは、さまざまな原因物質に体の免疫機能が反応し、喘息、鼻炎、じんましん、アトピー性皮膚炎の悪化などを生じる反応です。
実際、ダニ、ホコリ、花粉、ペットの毛などに反応し、症状が悪化するアトピー性皮膚炎の患者さんがいらっしゃいます。

 

バリア機能障害としてのアトピー性皮膚炎

近年の研究でアトピー性皮膚炎患者さんの多くに、フィラグリンと呼ばれる保湿因子を作る遺伝子に異常があることが分かってきました。
またセラミドと呼ばれる天然保湿因子の減少もアトピー性皮膚炎の症状に関係があることが明らかになっています。
アトピー性皮膚炎はアレルギー性の疾患という面もありますが、より本質的には「バリア機能」の低下により、有害な物質が皮膚に容易に入り込み、炎症を起こす病気である、と言えます。

 

いくつもの原因が複合する病気

アトピー性皮膚炎の悪化には、アレルギー反応やバリア機能の障害がかかわります。
これに加え、ストレスや皮膚を掻く行動も大きな悪化要因となります。
重症の患者さんの場合、アトピー性皮膚炎の症状自体が大きなストレスとなります。
ストレスと痒みのために、どうしても皮膚を掻くのが止められず、症状をさらに悪化させてしまうという悪循環の状態に陥ってしまうこともあります。
そうした患者さんにおいては、バリア機能が極端に低下してしまい、「とびひ」や「ヘルペス」といった、細菌やウイルスの感染症が生じることも珍しくありません。
さまざまな因子が複合し、相互に影響しあって症状が複雑になっていくのがアトピー性皮膚炎です。

アトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎のメカニズムと治療法については、日本だけではなく、世界中で多くの専門家が研究に取り組んでいます。
しかし、残念ながら短期間でアトピー性皮膚炎を根治させるような治療法は、ここ数年のうちにはまだ登場しそうもありません。

現在の治療は、

  • スキンケア
  • 炎症を抑える薬物治療
  • 悪化因子の除去

の3つが基本です。
このアトピー治療の「3つの柱」を実行することによって、症状をコントロールし、日常生活に支障が出ないようにしていきます。つまり対症療法です。

 

対症療法を続けていくうちに、アトピー性皮膚炎が自然治癒することがあることが知られています。
臨床研究によると、乳幼児のアトピー性皮膚炎の場合、約半数が小学校入学までに自然治癒するといわれています。
これは皮膚の成長、免疫機構の成熟によって、皮膚のバリア機能が改善するからだと考えられています。
一方で、治療をあまり行わなかった場合、バリア機能の低下した皮膚から、継続的にアレルゲンが取り込まれ、アレルギー症状が徐々に強まっていくと考えられています。対症療法によって症状をコントロールし、快適に日常生活をおくれるようにすることを目標に、根気よく治療を続けていくことが重要です。

アトピー性皮膚炎のスキンケア

皮膚の表面には角質層と呼ばれるうすい層があり、体を外界から隔て、異物から守ってくれています。
皮膚のバリア機能が障害されると、この角質層が破れ、その隙間から異物が侵入し、皮膚に炎症を起こします。
このバリア機能を傷害する因子を減らし、守ることが大切です。

 

保湿剤を風呂上りなどにしっかり塗り、肌の潤いを保つことがバリア機能の維持には有効です。
入浴の際、洗浄力の強いボディーソープなどは避けましょう。肌にやさしいタイプのものを選び、量も多すぎないように気を付けましょう。
体を洗うときは、硬いタオルは避けましょう。出来れば手で洗うのがお勧めです。
熱いお湯に長い時間入っていると、皮膚の天然保湿因子が失われるので、ぬるめのお湯に短時間が望ましいでしょう。

保湿剤の選択、使い方

アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア機能の障害が症状悪化の原因になります。
バリア機能の保護、修復には、皮膚の状態に合った保湿剤の選択が重要です。
乾燥が激しく、炎症を伴う場合は、多少べたついてもワセリンなどの保護力、保湿力の強いものを選択します。
比較的状態がいい場合は、ヒルドイドローション、ビーソフテンローションなどさっぱりとしたローション系を使います。
両者の中間の状態では、ヒルドイドソフト、ベギン(尿素クリーム)など、クリーム系がお勧めです。

保湿剤を使うタイミングですが、入浴後、洗顔後にすぐ塗るようにしましょう。
その際、角質を傷つけないよう優しく伸ばすように塗りましょう。
乾燥シーズンは日中でも保湿剤を塗りたすようにして、バリア機能の保護に努めましょう。

 

入浴、シャワーについて

アトピー性皮膚炎の方は、皮膚が弱いので、汗や汚れ、病原菌が皮膚に付着していると症状の悪化を招きます。
そこで入浴またはシャワーで皮膚を清潔に保つことが重要になります。
ただし、入浴によって症状を悪化させないよう、いくつか注意が必要です。

  • あまり強く皮膚を擦らないこと。硬いタオルは避け、できれば手であらうこと。
  • 洗浄力の強い石鹸、シャンプーを避け、刺激の少ないものを選ぶこと。
  • 熱いお湯、長時間の入浴は避けること。
  • 入浴後、早めに保湿剤、塗り薬を塗ること。

ステロイド外用剤

ステロイド外用剤

アトピー性皮膚炎の痒い湿疹の症状を抑える基本は、ステロイド外用剤です。
ステロイド外用剤は有効性が確かな薬です。種類が多く、症状に応じて柔軟に効き目を調整できます。
ステロイドの特性を熟知した皮膚科医のもとで正しく使用すれば、少ない副作用で大きな改善が望めます。

 

ステロイド外用剤を使う意味

ステロイド外用剤には、赤くて痒い皮膚炎の症状を治す効果があります。
燃えさかる炎に、バケツで水をかけて消すような直接的効果です。

アトピー性皮膚炎の病名には「炎(ほのお)」の文字が含まれています。
アトピーの痒くて赤い湿疹(皮膚炎)はまさに「炎」です。そしてステロイド外用剤は、「水」にたとえることができます。
炎に水をかけることで、火災を消火し、被害を食い止めることが出来ます。
正しくステロイド外用剤を使うことで、アトピー性皮膚炎のつらい症状を大幅に軽く出来るのです。

 

ステロイド外用剤は「消防隊」

「たとえ話」の続きをしたいと思います。
火災が起きた場合に消防士さんたちは、適切な消火方法を選択して、慎重かつ大胆に消火活動にあたり、そして完全に鎮火するまで作業を続けると思います。

アトピー性皮膚炎の治療方針も同じです。
専門家として適切なステロイド外用剤を慎重に選び、思い切ってしっかり塗るよう患者さんに指導させていただいております。そして十分に症状が改善するまでステロイド外用剤を継続していただき、その後も定期的に来院するようお願いしております。

もしも必要以上に副作用を恐れて
① 不十分な強さのステロイドを選んだり
② 塗る量、回数、範囲が不十分だったり
③ ある程度改善した段階で、早めに治療を中断したり
ということがあれば、アトピー性皮膚炎の症状のコントロールは出来ません。

これを、火災現場で例えるならば
① 性能の低い消防車しか確保できなかった(弱いステロイドを選択)
② 放水で建物が傷むのを恐れて、水圧と水量を低くした(塗る量と回数が不足)
③ 火の勢いが弱まったので、現場から撤収した(途中で治療を中断)
というのと同じことになります。これでは、火災は鎮火しません。

残念ながら、ステロイド外用剤の治療は1日で終わるものではないので、患者さんには経過を診察させていただくため、ある程度の間隔で通院していただく必要があります。
通院しながら症状をコントロールし、患者さん自身にも薬の特性やスキンケアのやり方を理解していただき、恐れず正しくステロイド外用剤を使用していただくことで、効果的な治療を行うことが出来ます。

 

ステロイド外用剤で「痒いから掻く、掻くから痒くなるサイクル」を絶つ!

“itch-scratch cycle”と呼ばれる現象がアトピー性皮膚炎の大きな悪化原因になっています。

itch(痒み)があるので、scratch(引っ掻くこと)が止まらない。

引っ掻いたことで湿疹が悪化し、痒みが増してしまう。
↓                 ↑
増した痒みのため、さらに引っ掻いてしまう。

このサイクルがグルグル回り続け、改善のきっかけがつかめなくなってしまう状態です。
これを絶つ最も有効な手段がステロイド外用剤です。
後で説明する抗アレルギー薬の内服も痒みをある程度やわらげる効果がありますが、ステロイド外用剤は「痒い皮膚炎」そのものを抑えることで、「つい掻いてしまう」という状況から脱出させてくれます。

 

ステロイド外用剤の分類と種類

ステロイド外用剤は強さによって便宜的に5段階に分類されています。
下の表のように、弱い方からweek(Ⅴ群、弱い) mild(Ⅳ群、中等度) strong(Ⅲ群、強力) very strong(Ⅱ群、かなり強い) strongest(Ⅰ群、最強)となっています。
一般的に効き目の強さと副作用の現れやすさは相関します。
そのため当院では、患部の状態、その部位の皮膚の特性、合併症の有無などを考慮しながらステロイド外用剤の強さを適切に選択するようにしています。

 

 ステロイド外用剤の塗り方

当院を受診される患者さんの中には、既に他の施設でアトピー性皮膚炎の治療を受けたことがある患者さんもおられます。
その中に、十分効果的と思われるステロイド外用剤を処方されているにも関わらず、重い症状が続いている方が見受けられます。
もともと重度のアトピー性皮膚炎であったため、症状のコントロールが難しい場合もありますが、実際に多いのが、「ステロイド外用剤を塗る量が少なすぎる」というケースです。

皮膚炎の治療においてステロイド外用剤は、少しベタつくくらい多めに塗るのが基本です。
それも「痒いときに」「痒いところにだけ」塗るのではなく、決められた回数(通常は1日2回)、指示された範囲に広く塗るようにします。

「薬はお手持ちのステロイド外用剤のままで大丈夫です。今日からは『この範囲』に、痒くても痒くなくても、毎日2回、たっぷり塗ってください。そして1週間後に来てください」

こんな指導で、1週間後に患者さん自身が驚くほど改善していることがよくあります。

どのステロイド外用剤を選択するかはもちろん重要ですが、それ以上に「ステロイド外用剤の塗り方」を正しくお伝えすることが、アトピー性皮膚炎治療の最大のキーポイントだとわたしは考えています。

しかし、多くの多忙な皮膚科では、「塗り方の指導」が不十分になることもあるようです。
当院では、ホームページや様々な媒体の活用、訓練された看護職員からの指導などによって、患者さまへのご指導、情報提供を充実させていきたいと考え、取り組んでいます。

 

ステロイド外用剤を塗る量の目安

塗り薬の量の目安として「ゆびさき1個分」という単位があります。
正式にはFTU(finger tip unit)といい、チューブから歯磨き粉のように軟膏を絞り出して、指の先端から第一関節までの長さ(直径5mm、長さ2cmくらい)の量を指します。
この分量がおよそ0.5gといわれています。
この分量で大人の手のひら2つ分、または顔面全体に相当するとされています。

手のひら2つは、全身の皮膚の面積の約2%に相当します。
極端な例かもしれませんが、全身くまなく塗り薬を塗るには、0.5gの50倍、すなわち25gの塗り薬が必要です。1日2回塗るとして、1日で50gを消費しても理屈の上では不合理ではないことになります。
実際に一度に25gの軟膏を塗る患者さんはまれですが、全身のアトピー性皮膚炎の場合、1週間で100gの塗り薬では足りなくても不思議はありません。
当院の診療現場では、アトピー性皮膚炎の初診患者さんに対し、
「今日50gの軟膏を処方します。1週間後の再受診のときまでに使い切っても構いません。もし半分以上あまるようなら、塗り方がかなり不足していることになります」
といった外用指導をしたりします。

「何g」とか「面積の何%」では伝わりにくい方には、こうお伝えします。

「ちょっとベタっとして、てかるくらい、たっぷり、そして広く塗りましょう!」

 

ステロイド外用剤の副作用

ステロイド外用剤にはいくつかの副作用があります。

  • 毛細血管拡張、潮紅
  • 皮膚の委縮
  • にきび
  • 酒さ様皮膚炎(あから顔)
  • 細菌感染、ウイルス感染

などです。

長期に強めのステロイド外用剤を使うほど、こうした副作用は生じやすくなります。
適切な強さを選択し、上手に症状を改善させつつ悪化因子を減らし、副作用が生じないようにしながら薬を調整していく必要があります。
そのためにも定期的な通院と、症状の把握が欠かせません。

 

プロトピック軟膏

タクロリムス(商品名プロトピック軟膏)とよばれる免疫調整剤があります。
日本で開発された薬で、ステロイドとは異なる仕組みでアトピー性皮膚炎の症状を抑えます。
ステロイドのストロングクラスに相当する効果がある一方で、ステロイドに比べ副作用が少なく、アトピー性皮膚炎の顔の症状の治療に有効な薬です。
一方で、使い始めの時期に肌に刺激感が生じることがあり、使用には多少のコツが必要です。
ストロングクラスのステロイド外用剤で症状を抑えた後、良くなった状態をメンテナンスするような目的で使うのが、お勧めの使い方のひとつです。

 

抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬

アトピー性皮膚炎には、つらい痒みが伴います。
かゆみは大きなストレスですし、睡眠障害の原因にもなります。
かゆみのせいで皮膚を掻きむしってしまえば、皮膚の状態を悪化させ、アレルゲン(アレルギーを起こす物質)が容易に皮膚に入り込んでしまうようになります。
痒みを抑えることが、アトピー性皮膚炎の治療の大きな鍵でもあり、目的でもあります。

皮膚のかゆみを生じるメカニズムは詳しくは分かっていませんが、肥満細胞という免疫細胞がヒスタミンという物質を放出し、これが神経に作用して痒みの信号として脳に伝達されると考えられています。
抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬はヒスタミンの分泌を抑えることで、痒みが生じ、伝わる仕組みを抑えることで、痒みのつらさを抑える効果があります。
抗アレルギー薬においては、多種の免疫細胞に働きかけて、アトピーの炎症を抑える働きも期待されるとされていますが、効果の根本は「抗ヒスタミン作用」と呼ばれる、痒みを抑制する作用であり、抗アレルギー薬も抗ヒスタミン薬も「本質的には同じ」ものと言えます。

抗アレルギー薬を服用していると、ある程度かゆみを軽減できます。
しかし、アトピー性皮膚炎のかゆみは激しいので、飲み薬だけでかゆみを感じなくさせることは不可能です。
また服用を中止すれは、すぐに効果は失われます。
かゆみをある程度コントロールしつつ、皮膚炎の症状をステロイド外用剤(またはプロトピック軟膏)で抑制して、ようやくアトピー性皮膚炎の症状の改善が得られます。

つまり、抗アレルギー薬は、外用剤による治療を適切に行っている場合に限り、一定の効果を発揮する薬、と言えます。
そのため、抗アレルギー薬はアトピー性皮膚炎の治療においては「脇役」の位置づけです。
アトピー性皮膚炎の新患患者さんから、
「前の病院で飲み薬をもらったけれど、飲んでも効かなかった」
と言われることがあるのですが、よく状況を聞くと「外用剤による治療」が適切に行われていなかったケースが多いように思われます。

単独では効果を発揮しにくい抗アレルギー薬ですが、ステロイド外用剤と組み合わせることで、より早くアトピー性皮膚炎の症状を改善してくれます。
かゆみを抑え、よく眠れるようになることで、ストレスや不安感から解放してくれる効果が期待できます。
他の治療手段とうまく組み合わせることで、抗アレルギー薬はアトピー性皮膚炎治療に有効な武器となります。

悪化因子の除去

アトピー性皮膚炎の治療においては、薬によって症状を抑えることの他に、悪化要因を出来るだけ除去することが重要です。

もともとアトピー性皮膚炎の方は、皮膚のバリア機能が弱く、またさまざまな刺激に反応しやすいアトピー素因を持っているのが普通です。
乾燥、発汗、皮膚の汚れ、ストレスはほとんどの患者さんにとって共通の悪化原因になります。
これら多くの方にとって刺激となりうるものは、出来るだけ遠ざけるよう、避けるよう指導します。

また、患者さんひとりひとりに個別の悪化原因が推定できる場合があります。
特に、肌に直接触れる、化粧品、石鹸、シャンプー、衣服は慎重に選ぶ必要があります。
食事も症状に影響を与えることがあるので、食生活の内容とアトピー性皮膚炎の症状の悪化に関連がないか、日ごろから注意を払うべきです。

 

ダニ、ほこり、ペットの毛、乾燥

室内がほこりっぽかったり、布団やぬいぐるみにダニが生息していると皮膚には刺激になります。犬、猫、ハムスターなど動物の毛なども同様です。
また、空気の乾燥は皮膚のバリア機能を損ない、悪化原因になります。
以下の点に注意しましょう。

  • 屋内の清掃をこまめに行い、フローリングは拭き掃除を定期的に行う
  • じゅうたん、ぬいぐるみは出来れば避ける
  • 寝具はときどき干し、掃除機などで汚れを吸い取る
  • 屋内で動物を飼うのを避ける
  • 加湿器などを活用し、室内の乾燥を避ける

 

石鹸、シャンプー、化粧品、服装、洗濯洗剤

洗顔石鹸、ボディーソープ、シャンプー、リンスなどが皮膚に刺激になる場合があります。
石鹸類には界面活性剤と呼ばれる成分が含まれており、皮膚の天然保湿因子を溶かしてバリア機能を低下させる作用があります。
石鹸の香りのもとになる香料、薬用石鹸の薬用成分がかぶれを起こすこともあります。
出来るだけ低刺激性のものを選び、成分が皮膚に残らないよう、入浴の際は優しく上手に流し去るようにしましょう。

化粧品が皮膚に刺激になることもあります。
アトピー性皮膚炎の方は、化粧は控えめにし、使う化粧品は低刺激のものを慎重に選ぶようにしましょう。

衣服の素材が皮膚に刺激になることもあります。
ジーンズなどの硬い素材のものは直接皮膚に触れないように配慮した方がいいでしょう。
また、選択洗剤や柔軟剤の成分が衣服の線維に残っていると、汗などに溶け出して皮膚に影響を及ぼす場合があります。
洗濯の際は、十分にすすぎをするようにしましょう。

 

食事

食事の内容がアトピー性皮膚炎の症状と関係している場合があります。
スキンケアや薬物治療によっても症状のコントロールが不十分の場合は、食事についても検討してみた方がいいでしょう。
できれば、食事の内容と皮膚の症状の変化を日記などに記録して、症状の悪化時期と、悪化前に摂取した食材に共通のパターンが見られるようなら、該当する食材を避けるようにして引き続き症状を観察します。
必要な場合はアレルギー検査を検討します。

 

規則正しい生活

睡眠不足、不規則な生活、過度のストレス、疲労、食生活の乱れがアトピー性皮膚炎の症状を悪化させることが知られています。
ストレスがアトピー性皮膚炎を悪化させ、そのかゆみがストレスや睡眠不足の原因になる、という悪循環を引き起こすことがあります。
まずは朝しっかり起きて活動的に過ごしましょう。昼間しっかり活動したら、夜は早めに休みましょう。ストレスが多いと、ついテレビを長時間視聴するなどして過ごしがちですが、だらだらとした夜更かしは健康のために決して望ましいものではありません。

 

アレルギー検査について

アトピー性皮膚炎の悪化原因を探るため、アレルギー検査を行うことがあります。
これは、いくつかあるアレルギーのメカニズムのうち、Ⅰ型アレルギーと呼ばれる反応を調べるもので、特異的IgE抗体と呼ばれる免疫抗体の数値を測定するものです。
ダニ、ハウスダストの他、植物、カビ、動物、化学物質など、さまざまな検査項目があります。
アレルギー検査が症状の悪化を防ぐために参考になることがあります。

※注意
アレルギー検査(IgE検査)には限界があります。
アトピー性皮膚炎のアレルギーにはⅠ型アレルギー以外のメカニズムもかかわるので、血液検査のみでアトピー性皮膚炎の悪化要因を特定できるものではありません。
アレルギー検査が可能な免疫抗体は数百項目ありますが、アレルギーを起こしうる世の中のすべての物質をカバーしているわけでもありません。
一度に調べられるのは最大13項目です。症状に関係する可能性のあるものをある程度絞り込んでからでなければ、あまり意味がありません。それにアレルギー検査は比較的高額な検査です。(3割負担で5,000円を超えることもあります)
こうしたことを踏まえ、当院では詳細な問診と症状把握の結果、患者さんのメリットになると判断した場合のみアレルギー検査をお勧めするようにしています。
なお4歳以下の方の採血検査は、申し訳ありませんが当院では対応しておりません。(必要な場合は小児科を受診していただいております。)

 

当院のアトピー性皮膚炎治療

「ステロイド外用剤で症状を抑えつつ、スキンケアの実施と悪化因子の除去によって、長期的に皮膚症状を良好に保つ」

当院のアトピー性皮膚炎治療のスタンスを単純化するとこの一文に集約されます。
これは、「アトピー性皮膚炎の標準治療」とも言うべきもので、平成21年に改訂された「日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」に準拠したものです。
このガイドラインは、多くの皮膚科の専門家が知恵と経験を持ち寄って出来あがったひとつのコンセンサスです。

「当たり前のアトピー性皮膚炎治療を、当たり前にしっかり継続する」

これだけで、多くの方の症状を良好に保つことができます。

アトピー性皮膚炎がうまくコントロールできずに悩んでいる胆振地方の患者さまに申し上げます。
もし、まだ「当たり前のアトピー治療」を受けていないのであれば、当院(あるいはお近くの信頼できる皮膚科)で「アトピー性皮膚炎の標準的治療」を受けてみてください。
標準的治療により、多くのアトピー性皮膚炎の患者さんが、皮膚のことで深刻に悩まずに日常生活を送ることができるようになるはずです。

世の中(特にインターネット上)には、玉石混交の情報があふれています。
なかには、「アトピーの画期的治療」のような謳い文句も目にします。
情報の質を見極める賢さ(情報リテラシー)が本当に重要な時代になったと感じます。
胆振、苫小牧のアトピー性皮膚炎の患者さまには、
「アトピー性皮膚炎治療の専門家である皮膚科医のもとで、当たり前の治療を当たり前に継続して受ける」
という、地味だけれども賢明な選択をしていただけるよう、心から願っています。

治療の流れ

受 付

予約は不要です。
健康保険証をご持参のうえ受付手続きをしてください。
過去の通院歴、投薬歴が分かる資料(お薬手帳)をご持参ください。

 問診票記入

問診票の記入にご協力ください。
皮膚科、およびそれ以外の医療機関の受診歴、投薬歴も確認させていただきます。
診察室にご案内後、看護師から症状や経緯をお伺いします。

 診 察

医師の診察を受けていただきます。
初診時はほぼ全身の皮膚を診させていただきますので、脱ぎやすい服装で来院いただけるとありがたいです。(化粧をしている場合は、化粧を全部はずしていただきます)

治療方針の説明

診察を踏まえて、治療方針を説明します。詳細な説明、補足は看護師が担当することがあります。

 軟膏処置

塗り薬のつけ方を実地に指導させていただきます。
多少べたつくことがあり、服も若干汚れる場合がありますので、来院の際の服装はご配慮ください。

 会計と薬局

待合室で会計をしていただき、処方箋をお受け取りください。
調剤薬局にて処方されてお薬を受け取り、指示に従いしっかり使用してください。

 通 院

指示にしたがって通院してください。
アトピー性皮膚炎治療のポイントは根気強い治療と定期通院です。

遠方からアトピー性皮膚炎の治療で当院を受診する際のお願い

当院では、アトピー性皮膚炎患者さんに対して標準的治療を行っています。
特別な治療は行っておりません。
出来るだけ丁寧に問診し、全身を詳しく診察(視診、触診)し、症状に合わせて標準的治療を行うだけです。

特別なことはしていないにも関わらず、かなり遠方よりアトピー性皮膚炎の相談で来院される方もおられ、ありがたく思うのと同時に、戸惑うことがあります。
アトピー性皮膚炎の「標準治療」の基本は、定期的通院です。
そのことをご理解の上で、片道2時間くらいかけて定期通院を継続していただいている方もいらっしゃいますが、長距離の通院は少なからず負担になっていると思われます。

わたしは、アトピー性皮膚炎の治療は、いつでも頼れる近所の皮膚科の町医者が一番だと思っています。
遠方に住んでおられる方には、できれば標準的治療をしているお近くの皮膚科を受診して、継続的に通院するようお勧めします。
それでも当院に来院される方は、以下の点にご留意のうえで受診されますようお願い申し上げます。

 

服装と化粧

診察の際(特に初回)は、ほぼ全身を診させていただきますので、脱ぎやすい服装で来院ください。顔の診察の際は、すべての化粧をはずしていただきますので、化粧をはずしても支障がないようご準備ください。(メイク落としシートは院内に用意しています)

 

これまでの経過

これまでの経過を詳しくお聞きします。来院して問診票に記入していただいておりますが、経緯が長い方、複雑な事情がある方は、あらかじめ書面にまとめてご持参ください。
これまで通院した医療機関についてもお尋ねしますので、受診の時期、処方された薬の内容、その他の治療の内容も分かるようにご準備ください。お薬手帳があれば必ずご持参ください。

 

薬のみの受診は一切お受けできません

いわいる「薬のみ」の対応はしていません。
「以前の医療機関ではやってくれた」とお叱りを受けることがありますが、法律で無診察処方は禁じられていますので、ご容赦ください。
遠方の方であっても、かならず毎回ご本人に来院していただき、診察を受けていただいております。

 

地域のホームドクター

当院の患者さんの約8割は苫小牧西部と白老町の住民の方です。
「お肌のホームドクター」として、ご近所に住む多くの方に繰り返し通院していただいております。
看護師、事務職員がうまく医師を補佐することで、大勢の患者さんが来院しても、あまり待ち時間が長くならない体制を目指しており、地域のみなさまに受け入れられている点だと思っております。
当院はアトピー性皮膚炎の専門外来を設けているわけではなく、通常の診療のなかで初診のアトピー性皮膚炎の患者さんの対応をしています。
そのため、初診であっても医師がお一人のために確保できる時間は10分もありません。
ポイントを簡潔にお話ししたあとは、看護師から軟膏の塗り方の指導や生活上の注意事項の説明をさせていただきます。
たくさんの質問をお持ちの患者さんもいらっしゃいますが、一度にすべての質問に医師がお答えすることが困難な場合があります。
当院で行う標準治療を受けながら、徐々に治療の理解を深め、疑問を解消していただければと思います。
こうしたスタイルでアトピー性皮膚炎の治療にあたっていることをご理解のうえ、受診するかどうかをお決めいただければ幸いに存じます。

アトピー性皮膚炎について

眼の周りは塗り薬をどのように使えばいいでしょうか?

目に入っても問題が起こりにくい「眼軟膏」と呼ばれるタイプのステロイド外用剤があります。弱い効果しかなく、当院ではほとんど使いません。通常はマイルドクラスのステロイド外用剤を選択しますが、このクラスには眼軟膏はありません。
眼から1~2cm離れた皮膚に少量の軟膏を乗せて、指でやさしくなじませるように眼の近くまで延ばすことで、眼に入ることなく塗ることが出来ます。

日焼け止めはどのように使うといいでしょうか?

アトピー性皮膚炎の方は肌が敏感なので、紫外線に強く反応する場合もあります。刺激の少ない日焼け止めを用意し、日差しの強いときに外出するときは使用しましょう。日焼け止は、ある程度肌に刺激になりますので、紫外線を浴びる程度と肌の負担のバランスを考えて上手に使うようにしましょう。

食事について気を付けた方がいいことはありますか?

特定の食材を摂取した後にかゆみや発赤が増すようであれば、アレルギーを疑いますのでご相談ください。それ以外は特に制限はありませんが、バランスの良い食生活を心がけるようにしましょう。
また、辛い食事、熱い食事、アルコールは皮膚の血流を増加させ、痒みを増加させることがあるので、ある程度配慮したほうがいいでしょう。

漢方薬による治療は行っていますか?

当院では漢方薬によるアトピー性皮膚炎の治療は行っておりません。

免疫抑制剤の飲み薬(ネオーラル)について教えてください

重症のアトピー性皮膚炎の治療薬として、ネオーラルと呼ばれる免疫抑制剤の使用が認められています。腎臓への負担が生じること、血圧が上昇することがあること、感染症になりやすくなること、費用が高額になるなど問題もありますが、高度に重症のアトピー性皮膚炎の患者さまが社会生活を続けるうえで有益な治療薬であることも確かです。
処方には内科などとの高度な連携が必要になるので、適応があると思われる患者さんは基幹病院への紹介を検討します。

ステロイドの飲み薬を使う場合がありますか?

ステロイドの内服薬は皮膚にも効果を発揮しますが、内臓や骨など全身に副作用が生じる恐れがあるので、慢性疾患であるアトピー性皮膚炎で安易に使うべきではありません。こうした考えから、当院ではステロイドの内服薬をアトピー性皮膚炎の治療のためには使うことはほとんどありません。
ステロイドの内服薬が必要なくらいの重症の場合は、より高度な治療が可能であり、入院設備もある地域の基幹病院への紹介を検討します。

ステロイド外用剤の副作用について教えてください

ステロイド外用剤の副作用の強さは、薬の効果の強さとおおむね相関します。主な副作用は、「ニキビが生じる」「酒さ様皮膚炎(赤ら顔)」「皮膚萎縮」「多毛」「感染症」などです。
詳しくは「ステロイド外用剤を正しく使う」をご参照ください。

いつまでステロイド外用剤を続けなければなりませんか?

ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎の炎症を抑える有効な手段です。ある程度症状が強い場合は、長期間使い続けなければならないこともあります。
アトピー性皮膚炎の症状には波がありますし、長期的には軽くなっていくことが期待されます。皮膚の状態が落ち着いているときはステロイド外用剤を使わず、保湿剤などで対応できるときもあります。

子供がアトピー性皮膚炎にならないように予防する方法はありますか?

アトピー性皮膚炎は体質的な傾向に、環境因子が加わることで発症します。
確実にアトピー性皮膚炎を予防する方法はありませんが、スキンケアに気を付け、規則正しい生活を続けてお肌の健康を保つよう心がけましょう。

親がアトピー性皮膚炎だと子供にも遺伝しますか?

アトピー性皮膚炎になりやすい体質は遺伝する場合がありますが、アトピー性皮膚炎は環境の因子も関わって発症します。
親がアトピー性皮膚炎だと子供もアトピー性皮膚炎になるとは限りません。

アトピー性皮膚炎は一生治らないのですか?

アトピー性皮膚炎は慢性の病気ですが、適切な治療によって症状のコントロールを続けていけば、長期的には自然治癒する場合が多いとされています。症状を抑えて快適に日常を過ごすためにも、将来的な治癒を導くためにも、根気よく治療を続けるようにしましょう。