爪水虫の完全治癒を目指して
白癬菌が皮膚に感染して起こる水虫のなかでも、爪白癬はもっとも治りにくく、もっとも悩ましい状態です。
爪の変形が進むと、歩行にも悪影響が生じます。
大切な家族に水虫をうつしてしまう可能性も高くなります。
患者さん本人と家族の健康のため、爪水虫を是が非でも治したい。
皮膚科医共通の願いです。
しかし、現実には従来の治療薬で一度は治療を試みたものの完全治癒には至らず、結局あきらめてしまった方もいらっしゃると思います。
よりよい治療薬が長く待たれていましたが、1997年の「ラミシール錠(テルビナフィン)」というお薬の発売以降、爪水虫の新たな飲み薬の登場は長らく途絶えていました。
ネイリンは日本発の新薬
そんな中、2018年に20年ぶりに爪水虫の新薬が登場しました。
日本で開発されたネイリンカプセルです。
ネイリンは1日1カプセル、12週間の服用で、爪水虫の完全治癒が期待されるお薬です。
当院では発売後すぐにネイリンを採用し、積極的に処方してまいりました。
以来、これまでより高い確率で爪水虫の「治癒」が実現できるようになりました。
データで見るネイリン
開発段階のデータによると、足の親指の爪白癬の患者さん153名の方が試験に参加され、そのうち101名の方がネイリンを12週間服用されました。
12週間服用し、服用終了36週間後の評価結果です。
- 爪の濁りがなくなり、顕微鏡検査でも白癬菌が見つからない「完全治癒」の方が、59.4%でした。
- 爪の濁りが30%以上減った「有効率」は94.4%に達しました。
これは従来の爪水虫治療薬に比べ、大変優れた結果だと考えます。
過去に飲み薬の治療で爪水虫の治療を行ったものの、完治に至らなかった方であっても、この2018年発売のネイリンによる治療をぜひ検討していただきたいと思います。
主な副作用は、肝機能障害、腹部不快感などとなっています。
安全に治療を行うため、肝機能検査を行うなど、異常がないか確認しながら治療をすすめることになります。
(※もともと肝臓に異常がある方は、ネイリンの服用は難しいと思われます。)
国内第Ⅲ相臨床試験(ネイリンNaviより引用)
当院における治療
ここからは、当院におけるネイリンを用いた爪水虫治療の流れをご紹介します。
診察室での流れ
まずは、診察室にて、足の状態を確認します。
爪に、濁り、変形などがある場合、爪の一部を削り取り、顕微鏡で白癬菌がいるかどうかを調べます。
爪を採取したのち、10分程度で判定が可能です。
顕微鏡で真菌を確認して爪水虫と診断した方に対し、治療手段についてご説明します。
ネイリンを内服する場合は、肝機能などの異常がないか確認させていただきます。
必要な場合は、血液検査を行いますが、ごく最近の検査データをお持ちの場合は、それを参考にすることがあります。
ネイリンで治療通院中、何度か血液検査を行い、副作用のきざしがないか確認しながら治療をすすめます。
当院においては、図のようなパターンで受診いただきます。
12週間の服用終了後は症状観察のために、1,2ヵ月に一回の通院を続ける、という流れになっています。
(通院のパターン、血液検査のパターンは医療機関によって異なることがあります)
結果は1年後
トータル12週間、しっかりと服用しますと、薬が爪や爪の根元の組織にしっかりと浸透し、白癬菌が抑えられます。
ただし、変色してしまった爪そのものがもとに戻るわけではありません。
その後生えてくる爪は、健常なきれいな爪となりますので、爪が生え変わることで治癒に至る、という流れです。
ちなみに足の爪が、根元から先端まで伸びて入れ替わるまで、1年以上かかるとされています。
そのため、ネイリンを服用終了時点ではわずかに、爪の根元がきれいになった程度です。
その後、約1年をかけて爪が生え変わるのを見守る、という段階を経て、最終的には治癒することが期待できます。
服用を終了する時点では、
「本当に治るのかな?」
と半信半疑の表情の患者さんもおられます。
そんな場合でも、数カ月後の診察の際には、笑顔で
「よくなってきたよ!」
と言っていただけることが多いです。
当院では、治療開始時点の写真を記録として残しておき、来院された患者さんの爪と比較するようにしています。
服用を終了した患者さんが経過観察に来るたびに、爪が着実によくなっていく様子を確認しているときが、一番うれしい瞬間です。
治療費用
治療の費用は副作用の有無、検査の回数、症状観察の期間などで変わります。
3割負担の方の場合、当院の治療費と薬局でお薬代の合計のご負担は、一番額が大きいときで9千円前後、すべての通院を合計して3万円前後かと思われます。
副作用と併用薬には注意が必要
ネイリン服用中に肝臓の検査数値が上昇するなど肝機能障害の疑いがある場合、内服治療を中断することがあります。
体調などにも留意しつつ適切に検査を行うことで、副作用のリスクをコントロールすることが出来ます。
その他、いくつかのお薬(※)との併用は注意が必要とされています。
(※ワーファリン、シンバスタチン、ミダゾラム)
最後に
爪は皮膚の大切なパーツです。
見た目が気になることはもちろんですが、気持ちよく歩くために爪は大切な役割を果たしています。
また、爪水虫が感染症であることも忘れてはいけません。
ネイリンの登場によって治療の選択肢が増えました。
爪水虫で悩んでおられる方は、ぜひ勇気をもってご相談ください。